個人事業から法人成りをした一人社長が、最初に必ず悩むのが「自分の役員報酬をいくらにするか」です。よく「法人税と所得税のバランスで決める」と言われますが、実はそれだけでは足りません。社会保険料まで含めた『会社+個人トータルの手取り』で考えるのが、正しい決め方です。本コラムで、その考え方を整理します。

なぜ役員報酬の決め方が大事なのか

会社の利益は、ざっくり「売上 − 経費 − 役員報酬」で決まります。つまり——

  • 役員報酬を高くすると 会社の利益が減り法人税は下がるが、個人の所得税・住民税・社会保険料は増える
  • 役員報酬を低くすると 個人の税・社保は減るが、会社に利益が残り法人税がかかる

一人社長は、この配分を自分で決められるからこそ、設計しだいで「会社と個人を合わせた手取り」が変わります。だからこそ、役員報酬の決め方が重要なのです。

出発点:法人と個人の「限界税率」のバランス

まず考え方の土台になるのが、税率のバランスです。役員報酬を低くして法人に利益を残しすぎると、個人の所得税率より高い法人税率で課税されてしまい、法人成りのメリットが薄れることがあります。逆に、上げすぎれば所得税の累進で個人側の税率が跳ね上がります。

そこで、理屈のうえでは「法人の限界実効税率」と「個人の限界税率(所得税+住民税)」がつり合う点が一つの目安になります。

法人税率は一定ではありません

中小法人は、所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率が適用されるなど、法人税率は所得の大きさで変わります。比較のベースとなる法人側の税率は、法人税率のしくみ(軽減税率と実効税率)のコラムで詳しく解説しています。

役員報酬には「給与所得控除」というメリットも

役員報酬(給与)には給与所得控除(みなし経費)が使えます。これは役員報酬を出す側のメリットで、詳しくは法人成りで給与所得控除が使えるコラムをご覧ください。

【最重要】社会保険料を必ず計算に入れる

ここが、多くの方が見落とすいちばん大事なポイントです。役員報酬を上げると、社会保険料(健康保険+厚生年金)が、会社負担・個人負担あわせておよそ30%も増えます。社会保険料は「税金」ではないため税率の比較からは抜け落ちますが、手取りへの影響は税金より大きいことすらあります。

税率だけで決めると「上げすぎ」になりやすい

税率だけを見て「法人税率と所得税率が一致する点まで役員報酬を上げよう」とすると、社会保険料の負担で、かえって会社+個人トータルの手取りが減ってしまうことがあります。実務では、「税金+社会保険料」をすべて含めたトータルの手取りが最大になる役員報酬を探します。その最適点は、税率だけで一致する点より“低め”になることが多いのが実感です。

ただし、厚生年金の保険料は将来受け取る年金額に一部反映されるため、増えた社会保険料のすべてが“ただの負担”というわけではありません。このあたりのバランスも含めて判断します。(在職老齢年金と役員報酬のコラムもご参照ください。)

「法人に利益を残す価値」も忘れずに

「役員報酬を上げて法人の利益をゼロにするのが一番トク」とは限りません。会社に利益を残すことには、次のような価値があります。

  • 将来の役員退職金 会社に残した利益は、将来の役員退職金の原資になります。退職金は税負担が軽く、有利に受け取れます。
  • 内部留保・信用力 利益の蓄積は、設備投資や、金融機関からの融資・信用評価につながります。

目先の1年だけでなく、数年先の資金計画まで見て、役員報酬と法人利益の配分を決めることが大切です。

実務の注意:役員報酬は途中で変えられない

「定期同額給与」が原則

役員報酬は、原則として事業年度開始から3か月以内に決め、その期は毎月同額で支給する必要があります(定期同額給与)。期の途中で自由に増減させると、増額部分などが損金にできないことがあります。つまり、「今期どれくらい利益が出そうか」を期首に見込んで、先に役員報酬を設計しておく必要があります。まとまった賞与を出したい場合は事前確定届出給与のコラムもご覧ください。

役員報酬の設計は、シミュレーションでご提案します

最適な役員報酬は、会社の利益見込み・ご家族の状況・社会保険料まで含めて試算しないと決まりません。当事務所では、法人税・所得税・住民税・社会保険料を通したうえで、会社と個人のトータルで最も有利になる役員報酬をシミュレーションしてご提案します。

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※本記事は一般的な解説です。最適な役員報酬は、所得金額・社会保険料・ご家族の状況など個別の事情により異なります。実際の設計にあたっては、当事務所または専門家にご相談ください。

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