これまでの2回(仕入税額控除の制限/控除対象外消費税額等)では、居住用賃貸建物の消費税が「控除できない」場面を解説しました。今回はその逆で、「居住用賃貸建物に"該当しない"=仕入税額控除が全額できる」ケースを、宅建業者・買取再販業者の方向けに整理します。ただし、一歩間違えると原則(制限)に戻る、非常に判断の難しい論点です。「要注意」の理由もあわせてご説明します。
「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの」は制限の対象外
そもそも仕入税額控除が制限される「居住用賃貸建物」からは、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物は除かれます。消費税法基本通達(11-7-1)は、その"明らかなもの"として複数の類型を示していますが、実務でいちばん判断が悩ましいのが次の類型です。
実務で悩ましい類型
「棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの」
これに当てはまれば居住用賃貸建物には該当せず、取得費用にかかる消費税を原則どおり全額、仕入税額控除できます。
要件は2つ
- ① 棚卸資産として取得していること(販売目的) 賃貸目的ではなく販売目的で取得した不動産であること。典型は、宅建業者・不動産販売会社が転売用に仕入れた建物です。固定資産(賃貸目的の投資用不動産)として取得したものは、この類型には入りません。
- ② 保有期間中ずっと、住宅として貸さないことが明らかであること ここが最大のポイント。取得時点だけでなく、転売するまでの保有期間中ずっと、居住用として貸し付けない状態が続くことが求められます。
リノベ再販(買主が自ら住む物件)は「該当しない」=全額控除できる
買取再販・リノベーション再販で、賃貸に出すことなく、リノベーションして"自ら居住する目的の購入者"に売却する物件は、保有期間中に「住宅の貸付け」という行為が一度も発生しません(売買=譲渡であって、賃貸ではないため)。したがって上記の類型にそのまま当てはまり、居住用賃貸建物には該当せず、取得・リノベ費用の消費税は通常どおり全額控除の対象になります。
【最大の落とし穴】「つなぎ賃貸」を一度でもすると、原則に戻る
要注意なのはここです。転売までの「つなぎ」として、一時的にでも住宅として賃貸に出してしまうと、その時点で②の「明らかなもの」の要件が崩れます。すると、原則どおり居住用賃貸建物として仕入税額控除が制限される(または共通対応課税仕入れとして按分計算になる)方向に戻ってしまいます。
裁判でも争われています(最判 令和5年3月6日)
転売目的で取得した建物を、売却するまでの間に住宅として賃貸していた事案について、最高裁は、その取得費用は「課税対応課税仕入れ(全額控除可)」ではなく「共通対応課税仕入れ(按分控除)」に該当すると判断し、納税者側が敗訴しました。
ポイントは、事業者側の主観的な"転売するつもりだった"という意図や事業計画上の位置づけがどうであれ、客観的に非課税取引(住宅の貸付け)に該当する事実があれば、共通対応課税仕入れになるという考え方が示されたことです。「売るつもりだった」だけでは通用しない、ということです。
税務調査に備える ―「販売目的だった」を証拠で残す
この論点は、取得時点の見込みだけでなく、保有期間全体を通じた"実際の利用状況"で判定されます。途中で一度でも居住用賃貸をすると、事後的に扱いが変わり得ます。だからこそ、税務調査で「販売目的であって、賃貸に供する意図はなかった」ことを説明できるよう、日頃からエビデンスを整えておくことが重要です。
- 仕入時点の事業計画書 その物件を「販売目的(棚卸資産)」として取得したことがわかる社内資料・稟議書など。
- 速やかに売り出したことを示す販売活動の記録 リフォーム後すぐに売却活動を始めたことがわかる、媒介契約・広告開始日・販売広告(ポータル掲載)などの記録。
- 賃貸募集をしていないことを示す資料 賃貸の募集広告を出していない、賃貸借契約を結んでいない、という事実を裏づける資料。
なお、1棟の建物のうち店舗部分と住戸部分が明確に区分できるなど、合理的に区分できる場合は、その区分に応じて非課税対応部分だけを切り出せる余地があります。
スキーム次第で結論が変わります ― 事前のご相談を
たとえば売買契約の前に賃貸借契約を挟むリースバック型のスキームなど、個別の契約形態によっては評価が変わり得ます。判断を誤ると、後の税務調査で多額の消費税を追徴されるリスクがある論点です。取引スキームが固まる「仕入れの前」の段階で、ぜひ一度ご相談ください。最終的な適用にあたっては、消費税法基本通達11-7-1の原文や、必要に応じて所轄税務署への事前照会もご検討ください。
不動産業の消費税は、当事務所にお任せください
当事務所は、宅地建物取引士の資格を持ち、自らも不動産業に携わる税理士として、買取再販・リノベ再販の消費税に精通しています。第1回仕入税額控除の制限・第2回控除対象外消費税額等とあわせてご覧いただき、不動産オーナー・不動産業の税務のページもご参照ください。
※本記事は一般的な解説です。「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの」の判定は、保有期間中の実際の利用状況など個別の事実関係により異なります。実際の適用にあたっては、当事務所または国税庁の情報(消費税法基本通達11-7-1)をご確認ください。