賃上げ促進税制や研究開発税制などの税額控除には、「その年の法人税額の◯%まで」という上限があります。そのため、赤字の年や、控除額が上限を超えた年には、せっかくの控除を使いきれないことがあります。その「使いきれなかった分」を、翌年以降に持ち越して使えるようにするのが「繰越控除」です。ここでは、中小企業が使える代表的な2つの繰越控除を整理します。
【結論】控除しきれなかった分を、将来の法人税から控除できる
・賃上げ促進税制(中小)…令和6年度改正で、控除しきれない額を最大5年間繰越(上限=法人税額の20%)
・中小企業技術基盤強化税制(研究開発税制)…令和8年度改正で、控除しきれない額を最大3年間繰越(上限=法人税額の25%)
・どちらも「別表(明細書)の添付」が必須。添付を忘れると繰り越せません
そもそも、なぜ「繰越控除」が必要?
税額控除は、計算された法人税から直接差し引ける強力な制度ですが、「その年の法人税額の◯%まで」という控除上限があります。そのため、次のような年には控除を使いきれません。
- 赤字(または法人税が少ない)の年……差し引く法人税が無い/少ないため、控除枠が余る
- 控除額が上限を超えた年……上限(法人税額の20%・25%など)を超えた分は、その年には引けない
こうした「使いきれなかった分(繰越超過額)」を切り捨てず、翌年以降に持ち越して使えるようにするのが繰越控除です。賃上げや研究開発にチャレンジした会社を、将来にわたって後押しするための制度です。
① 賃上げ促進税制の繰越控除(中小・最大5年)
令和6年度改正で、中小企業向けの賃上げ促進税制に繰越控除が新設されました。賃上げによる税額控除のうち、その年の法人税額の20%という上限を超えて控除しきれなかった額を、最大5年間繰り越せます。赤字で賃上げの恩恵を受けられなかった会社でも、黒字化した将来の年に控除を活かせます。
繰り越した分を使う年の条件
繰り越した控除を実際に使う事業年度では、その年の給与総額(雇用者給与等支給額)が前年度を上回っていることが必要です。「賃上げを続けている会社」が対象、という考え方です。くわしくは賃上げ促進税制のコラムもあわせてご覧ください。
② 中小企業技術基盤強化税制の繰越控除(最大3年)
令和8年度改正で創設された、新しい繰越控除です。研究開発税制の中でも「中小企業技術基盤強化税制」だけに設けられた点がポイントです(一般型や特別試験研究費には、この繰越控除はありません)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 繰越できる期間 | 翌事業年度以後 最大3年間 |
| 対象 | 控除しきれなかった額(繰越税額控除限度超過額) |
| 控除の上限 | その年の控除額との合計で法人税額の25%まで |
| いつから | 令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度に生じた分から |
| 繰越分を使う年の条件 | その年の試験研究費が前年度(比較試験研究費)を上回ること |
研究開発税制の全体像は、試験研究費の税額控除のコラムで解説しています。
【最重要】別表(明細書)の添付を忘れると、繰り越せません
繰越控除は、自動では使えません。控除しきれない額が生じた年以後、繰越控除を使わない年も含めて、毎期連続して確定申告書に所定の別表(明細書)を添付しておくことが条件です。1年でも添付を忘れると、その繰越分は使えなくなってしまうおそれがあります。
さらに、実際に繰越分を控除する年には、対象となる繰越超過額・控除する金額・その計算の明細を記載した書類の添付も必要です。「とにかく毎年、別表をつけ続ける」ことが、繰越控除を活かす最大のカギです。
2つの繰越控除の比較
| 賃上げ促進税制(中小) | 中小企業技術基盤強化税制 | |
|---|---|---|
| 繰越期間 | 最大5年 | 最大3年 |
| 控除上限 | 法人税額の20% | 法人税額の25% |
| 創設 | 令和6年度改正 | 令和8年度改正 |
| 使う年の条件 | 給与が前年より増 | 試験研究費が前年より増 |
| 別表(明細書) | 毎期の添付が必須(共通) | |
繰越控除の管理は、当事務所にご相談ください
繰越控除は、「控除しきれない額をきちんと計算して残す」「毎期、別表を欠かさず添付する」という継続的な管理ができて、はじめて効果を発揮します。特に赤字の年こそ、将来のために繰越額を正しく残しておくことが大切です。当事務所では、賃上げ・研究開発への取り組みを、繰越控除まで含めて取りこぼさないようサポートします。賃上げ促進税制・研究開発税制のコラムもあわせてご覧ください。
※本記事は一般的な解説です。繰越控除の繰越期間・控除上限・適用要件・適用開始時期は、法人の区分や個別の事情、最新の制度改正により異なります。実際の適用にあたっては、当事務所または国税庁(令和6年度・令和8年度 法人税関係法令の改正の概要、措法42の4ほか)の情報をご確認ください。