飲食店や美容室などの個人事業がうまくいき、「そろそろ法人成り(法人化)を」と考える方は多いものです。ですが、個人の事業をそのまま法人に移すとき、「資産の引継ぎ」と「借入金の引継ぎ」には、知らないと損をする落とし穴があります。進め方を誤ると、思わぬ税金がかかったり、融資に不利な決算書になってしまうことも。ここでは、特に見落とされがちな2つの注意点を解説します。

【結論】「資産」と「借入金」の引継ぎに要注意

・①商品や設備を法人へ移すのは「譲渡」 → 個人に課税される収入(事業所得・譲渡所得)が生じる
・②個人の借入金の引継ぎは、資産と負債のバランスしだいで「役員貸付金」が生じる → 進め方を誤ると、利息や融資評価の問題に
・どちらも、法人成りの"前"に設計しておくことが大切です

① 商品・設備を法人へ移すと「譲渡」になる

個人で使っていた商品や設備を、新しく作った法人へ移すとき——これは「ただの名義変更」ではなく、税務上は個人から法人への「譲渡(売却)」として扱われます。つまり、個人側に"収入"が生じ、その年の所得税の対象になります。

資産を法人へ移す=「譲渡」として個人に課税 個人事業主 飲食店・美容室 商品・食材/厨房・美容設備 資産を移す=譲渡(売却) 新しい法人 資産を受け取る 商品・食材(棚卸資産) → 個人の「事業所得の収入」に (通常の売上と同じ扱い) 厨房・内装・美容設備(固定資産) → 個人の「譲渡所得」に (建物附属設備・器具備品など)
資産を法人へ移すと、個人側に収入が生じ、廃業年の確定申告で課税される

商品・食材(棚卸資産)は「事業所得の収入」

飲食店の食材・ドリンク、美容室の販売用シャンプーや化粧品などの棚卸資産(在庫)を法人へ移すと、個人事業の「売上」(事業所得の収入)として扱われます。普段どおり商品を売ったのと同じ、というイメージです。

厨房・内装・美容設備(固定資産)は「譲渡所得」

飲食店の厨房設備・空調・内装(建物附属設備)、美容室のセット椅子・シャンプー台・美容機器(器具備品)などの固定資産を法人へ移すと、個人の「譲渡所得」として扱われます。帳簿価額より高く売れば、その差額に所得税がかかる場合があります。

ここがポイント

これらは、個人事業を廃業する年の確定申告で、所得税の対象になります。「法人に移しただけ」と思っていると、想定外の税負担が出ることも。また、引継ぎの価額は原則として「適正な時価」で決める必要があり、安く移しすぎても別の問題(低額譲渡など)が生じます。何を・いくらで移すかは、事前に設計しておくことが大切です。

② 借入金の引継ぎは「役員貸付金」に注意

開業資金などで個人事業のときに借入金がある場合、法人成りでその借入を法人が引き継ぐことは、金融機関(日本政策金融公庫など)でもよく行われます。ただし、引き継ぎ方しだいで「役員貸付金」が生じることがあり、ここが大きな注意点です。「借入を引き継いだら必ず役員貸付金になる」わけではありません。

まず、借入金の引継ぎ(債務引受)には2つの方法がある

どちらになるかは、金融機関・公庫が判断します(新しい法人に信用・実績がないと、免責的が認められないこともあります)。

種類誰が返済義務を負うか
免責的債務引受法人だけが債務者に(個人は原則、連帯保証人の立場になる)
重畳的(併存的)債務引受個人と法人が連帯して返済義務を負う(個人も債務者のまま)

「役員貸付金」が生じるのは、引き継ぐ負債が資産を上回るとき

役員貸付金が生じるかどうかは、法人が引き継ぐ「資産」と「負債(借入金)」のバランスで決まります。

役員貸付金が生じるのは「負債 > 資産」のとき ✕ 負債だけが多く移ると 引継ぐ資産 引継ぐ借入金 差額 負債 − 資産 の差額 = 役員貸付金 ○ 資産と負債をセットで引き継ぐ 引継ぐ資産 引継ぐ借入金 差額なし → 役員貸付金は生じにくい
借入金に見合う資産を一緒に引き継げば、役員貸付金は生じにくい
  • 引き継ぐ負債 > 引き継ぐ資産 … その差額が「役員貸付金」(法人が社長個人に貸した形)になります
  • 引き継ぐ資産 > 引き継ぐ負債 … その差額は「役員借入金」(法人が社長個人から借りた形)になります

つまり、借入金を引き継ぐこと自体が問題なのではなく、借入金に見合う資産を一緒に引き継がず、負債だけが法人に移る(=個人の債務超過を肩代わりする)ような形になると、役員貸付金が生じてしまうのです。また、借入金に対応する資金を法人の口座へ移さないまま借入だけ引き継ぐケースも、同じく役員貸付金・役員賞与とみなされるおそれがあります。

役員貸付金が生じると、3つの問題

  • 利息が必要になる 役員貸付金には、原則として法人が利息を取る必要があります。利息を取らず返済もしないと、社長への給与(役員賞与)とみなされ、課税される恐れがあります。
  • 融資審査でマイナス評価になりやすい 決算書に役員貸付金があると、金融機関から「会社のお金が社長個人に流れている」とみられ、新たな融資の審査で不利になりがちです。
  • 一度計上すると、解消が難しい 役員報酬を減らして少しずつ返済するなど、解消には時間と手間がかかります。最初から作らない設計が大切です。

役員貸付金を生じさせないために

・法人成りの前に、金融機関・公庫と引継ぎ方法を相談する
・引き継ぐ資産と負債のバランスを事前に確認し、負債だけが移らないようにする
・債務引受は利益相反取引にあたるため、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の承認・議事録が必要
・やむを得ず貸付金が生じる場合は、定期的な返済と利息の設定を行う(しないと役員賞与とみなされるおそれ)

だからこそ、法人成りは「事前の設計」が大切

法人成りは、「何を・いくらで法人に移すか」「借入金をどう扱うか」を、事前に設計しておくことで、思わぬ税負担や、融資に不利な決算書を避けられます。特に、これから金融機関との付き合い(創業融資・追加融資)を考えているなら、決算書をきれいに保つ設計が、将来の資金調達を大きく左右します。

飲食店・美容室の法人成りは、当事務所にご相談ください

当事務所は、認定経営革新等支援機関として、創業融資の支援実績も豊富です。法人成りのタイミングから、資産・借入金の引継ぎ、融資を見据えた決算書づくりまで、設立前の設計段階からサポートします。あわせて法人成りの節税メリット(給与所得控除)や設立時の役員の決め方のコラムもご覧ください。

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※本記事は一般的な解説です。資産・借入金の引継ぎの税務上の取扱いは、資産の種類・価額や個別の事情、最新の制度により異なります。実際の法人成りにあたっては、当事務所または国税庁の情報をご確認のうえ、事前にご相談ください。

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