会社を設立するとき、「役員を誰にするか」は、将来の税金を大きく左右する最初の重要な設計です。特に見据えておきたいのが「将来の退職金」。実は、役員報酬を支給するかどうかにかかわらず、設立時に親族を役員に入れておくことで、将来の退職金を有利に受け取る準備ができます。その理由を解説します。
退職金は、税制上とても有利
退職金(役員退職慰労金)は、給与や役員報酬に比べて税負担が大きく軽くなるお金の受け取り方です。理由は次の2つです。
- ① 退職所得控除が大きい 勤続20年以下は「40万円 × 勤続年数」、20年超は「800万円 + 70万円 ×(勤続年数−20年)」を、退職金から差し引けます。
- ② 控除後、さらに「2分の1」だけが課税対象 (退職金 − 退職所得控除)に2分の1を掛けた金額だけが課税対象になります。しかも他の所得と分けて計算する分離課税です。
カギは「役員としての勤続年数」
上の①②から分かるとおり、退職金の節税効果は「勤続年数が長いほど大きくなる」のがポイントです。勤続年数が長いほど退職所得控除が増えます。
「2分の1」が使えるのは、役員勤続年数が5年超(6年以上)から
役員の退職金では、役員としての勤続年数が5年以下の場合(特定役員退職手当等)、上記②の「2分の1」が使えません。裏を返せば、役員としての勤続年数が5年を超える(実務上、6年以上)と、2分の1課税という大きな優遇を使えるようになります。だからこそ、役員としての年数を、できるだけ早くから積み上げておくことが大切なのです。
だから、設立時に親族を役員に入れておく
ここが本題です。将来、親族(配偶者やお子様など)に退職金を支給して所得を分散したいと考えるなら、会社の設立時から、その親族を役員として登記しておくのが有効です。
- 役員勤続年数は「設立時から」積み上がる 設立時に役員に就任しておけば、その時点から役員としての在任年数がカウントされます。将来の退職金で、より大きな退職所得控除・2分の1課税につながります。
- 役員報酬を支給するかどうかは問わない 勤続年数は「役員として在任した期間」で積み上がります。役員報酬を支給していなくても、役員として登記していれば年数はカウントされます。「今は報酬を出さないが、将来の退職金のために名を連ねておく」という設計が可能です。
役員は「15歳以上」から就任できます
役員に就任するには、就任承諾などで印鑑証明書(印鑑登録)が必要になる場面があり、印鑑登録ができるのは原則15歳以上です。したがって、お子様なども15歳以上になれば役員に就任できます。早く役員にしておくほど、将来の勤続年数を長く積み上げられます。
ただし、注意点があります(ここが実務の肝)
- 「役員としての実態」が必要 まったく職務に関与しない"名前だけの役員"は、税務調査で否認されるおそれがあります。役員としての実態(経営への関与など)を伴わせることが前提です。
- 退職金の「適正額」は別問題 勤続年数が長くても、支給する退職金が過大だと、その過大部分は会社の損金にできません(役員退職金は功績倍率法などで適正額を検討します)。役員報酬の水準も適正額の算定に影響します。
- 登記・任期などの手続き管理 役員の就任・重任には登記や任期管理が必要です。入れて終わりではなく、継続的な管理が欠かせません。
会社設立は「出口(退職金)」まで見据えて設計します
会社の作り方は、目先だけでなく、数十年先の退職金という"出口"まで見据えて設計することで、将来の税負担が大きく変わります。当事務所では、設立時の役員構成・株主構成から、役員報酬、そして将来の退職金・事業承継まで、一貫してご提案します。会社設立・起業・法人化支援のページや、役員報酬の決め方のコラムもご覧ください。
※本記事は一般的な解説です。役員退職金の損金算入や退職所得の計算、役員就任の手続きは、個別の事情や最新の制度により異なります。実際の設計・申告にあたっては、当事務所にご相談ください。